大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和36年(ラ)14号 決定

抗告人 渡部ヒヤク

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は別紙記載のとおりである。

一、記録によれば、第一審原告木野菊雄が訴状添付の別紙物件目録に、訴訟の目的物たる本件建物の家屋番号を「第三号」と表示していたため、第一審裁判所が右表示に従い、判決添付の別紙物件目録に右建物の家屋番号を「第三号」と掲記したことが認められる。しかるに右原告が控訴審において提出した本件建物の登記簿謄本(甲第一〇号証。なお同号証が本件建物の登記簿謄本であることは、抗告人(第一審被告)が控訴審において認めるところである)によれば、右建物の公簿上の表示は地番、種類、構造及び坪数は右判決の目録記載と全く同一であるが、その家屋番号は「第三号」でなく「第六三号」であることが明らかであるから、右登記簿謄本に比照して、右判決添付の別紙物件目録の建物の表示には明白な誤謬があるものといわねばならない。

二、抗告人は判決中の建物は「家屋番号第三号」として裁判上既に確定したものであるから、第一審裁判所は最早右家屋番号の表示を更正できない旨主張するが、右建物の家屋番号「第三号」の記載が「第六三号」の誤りであることは前段説示のとおりであるし、判決にかかる明白な誤謬が存する場合、判決裁判所が判決確定の前後を問わず、何時でもその更正決定をなし得ることは民事訴訟法第一九四条に照し明らかであるから、第一審裁判所たる福島地方裁判所会津若松支部が第一審の確定判決に明白な誤謬ありとして、右建物の家屋番号を「第六三号」と更正したとしても、その決定には何ら違法の点はない。よつて抗告人の右主張は採用できない。

三、また、抗告人は第一審裁判所は、その判決に明白な誤謬があるか否かは、当該裁判所に顕出された証拠資料だけで検討すべきで、控訴審において提出された証拠をその判断の資料となすべきではないと主張するが、そのように判断の資料を制限すべき法律上の根拠はどこにも見当らないばかりか、上級裁判所に顕出された証拠も亦右判断の資料となし得るものと解することが、かえつて、更正決定を認めた前記規定の法意にもかなうものと解するから、抗告人の右主張も採用するに由ない。

四、更に抗告人は「家屋番号第三号」の建物は「家屋番号第六三号」の建物とは別個に現存している筈であるから、第一審裁判所が建物の家屋番号を「第三号」と表示したのは、本件建物に対する表示方法を誤つたものということはできない旨主張するが、第一審裁判所が本件建物の家屋番号「第六三号」を誤つて「第三号」と表示したことは前段認定のとおりであるから抗告人の右主張も亦採用できない。

よつて本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第四一四条第三八四条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上武 上野正秋 鍬守正一)

抗告の理由

一、相手方は昭和三十六年一月三十日付判決更正申立書に基き福島地方裁判所会津若松支部昭和三一年(ワ)第一五九号不動産所有権移転登記手続履行請求事件の判決正本中添付目録の記載である家屋番号第三号とあるのを第六三号と更正決定あらんことを求め、同支部は同年二月一日申立に副う更正決定をした。

二、右訴訟において判決正本添付目録記載の物件は係争目的物であるからその表示は重要なものである。然るに相手方は原告として右訴訟の訴状添付目録に家屋番号第三号と記載し、そのまま第一審判決を受け、従つて判決添付の目録にも同様家屋番号第三号と表示せられた。

三、第二審に至り双方代理人は原判決事実摘示の通り原審口頭弁論の結果を陳述し(昭和三二年一一月二六日)昭和三四年一月二九日の口頭弁論において右表示を訂正したらしく、控訴代理人は甲第一〇号証に記載の建物が本件の建物であることは争わない旨陳述した結果、第二審判決の事実中には右訂正の旨記載されるに至つたが判決主文は単に「本件控訴を棄却する」と記載せるのみで目録は添付されていない。従つて右主文によれば第二審判決が維持した第一審判決は依然訂正前のままであり、ために本件更正申立に及んだのは尤もと考えられるのであるが、(第二審判決主文に包含されない以上)本件目的物は家屋番号第三号として上告判決のあつた今日既に確定したもので、突如第一審裁判所が右第一審判決の目録中の前記部分を更正することは違法であると信ずる。

追加申立書記載の抗告の理由

一、福島地方裁判所会津若松支部は、同裁判所が昭和三十二年八月二十八日言渡した判決につき同三六年二月一日「本件判決の別紙目録中第二行家屋番号『第参号』とあるを『第六参号』と訂正する旨更正決定をした。

二、右裁判所が判決の更正決定をなしうるのは、当該裁判所が審理した資料の範囲内において明かな誤記がある場合に限られ、当該裁判所以外の裁判所、即ち本件控訴裁判所である仙台高等裁判所において審理した資料を基礎にして更正決定することはできない。

而かるに右会津若松支部において言渡した本件判決は判決そのものの記載によるも将又、同支部における口頭弁論における原被告双方の陳述によるも、本件目的物は、その言渡した家屋番号「第参号」以外の家屋番号「六参号」であることを毫も知るに由なく、右更正決定を許すことはできないものである。即ち訴状記載の請求の趣旨には「別紙目録記載の建物について」と記載し、目録には「喜多方市字三丁目四千八百六十二番地家屋番号第参号ヽヽヽ」と記載してあり、従つて右支部の判決も右同様の目録を記載したのであつて、請求の趣旨訂正の申立もないから誤謬どころか第参号と記載して判決の記載は寧ろ正当といわねばならない。

従つて、右支部の判決には明白な誤謬は毫も見当らないのである。

三、仮に右会津若松支部が、同裁判所以外の裁判所に提出された資料を基礎として、更正決定をなしうるとしても家屋は家屋番号によつて特定されるものであるから、右「第参号」と「第六参号」とは何れも現存する筈であり、同一家屋に関する特定方法を誤つたとは言うことができない。果して然らば右家屋番号の記載が異ることは「違算、書損その他之に類する明白な誤謬」とはいえない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例